第12話【花も嵐も】 ぶどう峠〜御巣鷹を望む<上信>


1995年の夏に武道峠(ぶどう峠)を越えたときのことです。

日本航空のジャンボジェット機が墜落したのがこのぶどう峠から望める御巣鷹山でした。
たまたま10周忌に私はこの峠を越えました。そんなことで関係者や報道陣が溢れているのに遭遇します。

家を出発する前にこの事故の関連するドキュメンタリーを読み終わっていたこともあって、事故の内容と目の前の風景が一体になって、無関係な人間であ りながら心にズキンとくるものがありました。バイクを止めて思わず峠で合掌をしているのです。一人だと心に淀みや嘘がないのだなと感じます。

峠からの景色は素晴らしく、きちんと綺麗に植林された山並みが幾つも重なりその向こうに御巣鷹山は見えました。恐怖の数時間の間に考えたこと、大多 数の方々は思い浮かんでくるのが子供のことだったのであろうなと思います。もしも私があの飛行機に乗っていたら何を思いどんな行動を取ったのだろうか。

信州と関東は、山ひとつを隔てて隣同士だということに改めて気が付きます。この峠を越えるだけで関東平野に行けてしまう。だから、幾人もの関東ナン バーに出会う。ああ、遠くまで走ってきたもんだ、という感動がじわっと襲ってくる。こんな奥深い山の中に投げ出されたときに、微かでも意識が残っていた人 はさぞかし無念だったことでしょう。

JAL123便の皆さん、安らかに。私が峠を越えてゆく間に何台ものツーリングライダーとすれ違う。若いツーリングライダーの中にはこの事故が歴史となってしまってから生まれたという子もいることでしょう。

伝えることに尻込みをしてはならないのだな、と思う。いつ、どんなときでも、どんなことでも。


2006年4月30日 (日曜日)