第24話【花も嵐も】 何故、惹かれるのだろう<四国>


四国を旅すると他の地方では味わえなかった様々な光景に出会うことができます。山村部を走ると信号の数が極端に少ないような気がするし、町工場の建物も目立たない。

その代わりに頻繁に細い道をお遍路さんが歩いてゆくのを見かけます。空海の開いた道。白い装束を纏い片手に杖を持って黙々と歩く。ときにはよろよろ と歩く人もあるけれど、そのすべてが絵になって美しいのです。ひとつの想いを胸に抱きながらか、何か祈りを唱えてか、はてまた訳もなくなのか。歩く姿は人 の原点であるのだなと気づかされます。

国道439の狭い峠道を幾つか越えて、次から次へと村を訪ねました。途中で雨に降られます。降り出した雨に合羽を着ようか着まいか躊躇している女性ライダーがいた。
「どこまで?」
て尋ねると、
「西海岸に出て大堂海岸ユースまで」
昔からの友だちと交わしている会話のようだ。ライダーたちは、気軽に声を掛け合い名前も聞かずに分かれてゆく。

寒風峠で、昨日のキャンプ場で言葉を交わした人たちと偶然に再会した。旅人の道筋は似かよっているので、途中で何度も顔を合わすことも稀ではありません。
その日は朝から雨降りで、峠に辿り着いたら雨足が更に強くなり始めた。霧が流れてゆく方向にみんなが目指す「瓶ヶ森林道」があります。しばらく、霧に包まれた峠の小屋で一服した後、思いを決したように彼らは消えて行きました。

旅の途中の出会いは様々です。剣山林道で出会った若い男の子は、ハンドルにジュースの缶を縛り付けて灰皿にしていた。四万十川源流の道しるべの前でも言葉を交わして、川を遡って源流を見届けるロマンの話をした。

大雨の日、外はもう真っ暗闇になっている時間に、屋島ユースにグースというバイクで飛び込んできた東京からのひとり旅の女の子。

日和佐の駅で野営したときに、朝早く陽が昇る前だったので私を起こさないようにという気遣いで、タンクバックに「お先に」というメモを残して先に旅立って行ってしまった子。

日本中の何処のどんな場所を走っている人であっても、風を受けて走りながら感じているものは同じなんだけど、それを言葉で確かめ合うと感動があるのだ。

走っている旅人たちは純朴でほんとうにバイク旅が好きな人たちばかりだ。様々な波長がある楽しみかたがあるなかで、都会の街中ならば対立するかもしれないのにここでなら理解し合えるのが不思議だ。

ひとりで旅をする人たちは雨の日も風の日も自分と対話をしながらアクセルを握っている。
ひとりだけれどひとりじゃないのだ。


2006年5月31日 (水曜日)