第5話【花も嵐も】 素敵な駐在さん<下北半島>


下北半島の太平洋岸にはヤマセが吹き、街はしたたかな霧に包まれていました。カワヨグリーンユースホステルを出て下北半島の先端を目指していた私 は、半島の首の一番細い部分の太平洋側を北上してゆく。地図を見るためにバイクを止めた集落が「老部」(おいっぺと言うらしい)というところで、ちょうど 駐在所の前でした。

いつも私は女性を可愛いとか綺麗とかと表現するので、嘘つきだとお思いの皆様が多いも知れませんが、決して嘘つきではないと自分では思っています。前置きはいいとして、交番の前で地図を広げていると「綺麗な」女性が声を掛けてくれました。交番の奥さんです。

中に入らないかと誘ってくれるので、8月初旬にしてはやや肌寒かったこともあり、少し休憩をさせて戴くことにし、遠慮なくお世話になりました。無添 加の林檎ジュースと、さっき作ったばかりのまだ暖かいおからのドーナッツを、奥さんは出して下さった。そして、交番の応接用ソファーで色々とこの土地の話 を聞かせてもらったり、私も旅のいきさつなどを1時間ほど話しました。

「老部という村落は寂れた漁村に見えるけど、実は黒字経営で立派な家屋が並んでいるのが交番の窓からも見えるでしょ、イカが大きな漁業資源なんです よ」というような説明をしてくださった。地元の人の話を聞くことはツーリングには欠かせない楽しみですが、まさか駐在所で、しかも、奥様も一緒になって話 が聞けるとは驚きで、最高にいい思い出です。

仏が浦の景色の話になったときに、奥さんがテレホンカードを出してきて、遊覧船の乗り方などを説明してくださって、「海から眺めるのがいいですよ」と教えてくださった。カードは新品で「記念に」と言って私にくださった。
仏が浦は水上勉の「飢餓海峡」舞台でもあり感動もひとしおである。

駐在さん。現在もそこにおいでなのか…、また新しい村へと移って行かれたのか、気になる。


2006年4月21日 (金曜日)