第6話【花も嵐も】 続・素敵な駐在さん <下北半島>


私は「ひとり旅、下北の衝撃」という日記を後になって書かねばならなくなった。そのわけが次に書かれています。

何故、人はただひとりで旅に出るのだろうか。風に吹かれることにロマンを感じるようになったのは、いったい、いつごろからなのだろうか。そういう遠 大な自問を、恥じらいも照れもなくさらけ出すようになると、同じことを感じていた仲間たちがコメントをくれます。ひとり旅仲間がどれだけ増えても、やは り、ひとり旅です。

「ひとり旅ですか、いいねぇー」と旅先で話しかけられる。でも私にとって、旅はいつもひとり。日常の生活の中からそっと抜け出すために、あるいは、 あらかじめ敷かれたレールの上を決まった手順で走り続けることへの反発・・・・のようなものを感じて、旅に出る。どこまでも淋しくセンチでありながらもロ マンに満ちている。そして旅先で様々な人たちに出逢い語り合う。名前も尋ねなければ身の上も聞かない。便りを交わすわけでもなく、やがてその人たちのこと を忘れてしまう。それでも旅を続ける。

ひとつの衝撃的な話が目に飛び込んだ。私が下北を旅して2、3年後が過ぎた6月末のある日、ふと朝刊を見て驚きました。青森県の下北半島でひとりの警察官が殺害されたという記事が載っていたのです。

生々しい血痕がパトカーに付着している写真が大きく一面に出ている。その脇に小さく写った顔写真に見覚えがある。
1996年の夏、このお巡りさんが下北半島の老部という寒村の交番に着任して間もないころ、旅の途中だった私は、この交番で朝食をご馳走になっていたのです。

あの日は、少し肌寒い朝でした。「老部」という漁村の交番の前でバイクを止め跨ったまま地図を見ていたら突然、「どうぞ」と太くて低い声で交番の中 に誘ってくださった人がそのお巡りさんでした。奥さまと一緒にソファーに腰掛け、私に朝食をご馳走してくださった。できたての美味しいドーナツと、無添加 の林檎ジュース。警察官だからという先入観もあって、厳しそうに見えたが、理解のありそうな人で、奥さんも綺麗な人だった。

漁村の話をしたり、息子さんがバイクに乗って東京から帰ってきたんだ、という話などをし、親近感が深まってゆく。「仏ヶ浦」の話もした。テレホンカードを出してきてこんな所だと説明をしてくださった。
「ぜひ、船に乗って海から見ることをお薦めしますよ」と話して、そのカードまでも記念にくださった。8月1日と日記に書いてある。

何度も新聞記事を読み返した。交番の地理や様子が新聞記事と一致する。もう一度地図を広げてみると記事にある「白糠交番」の位置が不明。しかし、こ んな田舎にそんなにたくさんの交番があるとも思えないから、あの交番で間違いないのではないだろうか。白糠小学校と老部の集落は2キロほどしか離れていな い。白糠交番は老部の交番の事ではないか、と確信している。

しかし、やはり私の勘違いであって欲しい。(合掌)


2006年4月21日 (金曜日)