予感のようなもの  

2005年 01月 15日


琵琶湖は鏡のように穏やかで、空よりも深く濃い青色をしていた。その向こうに賤ヶ岳が小さく見えて、遥か遠くに伊吹の山が霞んで見えていた。関が原はそのもっと向こうかもしれない。

「あ の白い花は何だろうね」と高台の展望所から水辺際のほうを指差して呟いたアイツ。そのアイツと出逢ったのは初夏のことで、地面が融け出しそうなほどに暑 かった夏の真っ盛りにみちのくで別れ、再び春に再会し、一枚の写真を返して晩秋に別れた。そして、静かで何も起こらない冬が過ぎて、また再び春を迎えよう としていた。

みちのくのテーマのことを私はずっと考え続けていた。もうアイツと旅を続けるつもりはない。アイツのことはもう忘れた…とい うような見え透いた嘘も言わない代わりに、願っても夢物語にしかならないし、すでに叶わぬ人となる予感を察していたせいもあって、アイツにこだわるつもり はなかった。

そう思うと、ひとりの女が不憫でどうしようもなく可愛いく見えた昔と違って、強く逞しいオンナがしたたかに生きている姿を容易に想像できるから不思議だった。

梅が咲いたとニュースが報じている頃だった。オンナからメールがきた。

---元気かい

何だこの野郎。冬中知らん振りをしやがって、許せない奴だなと思って、

---まあな

と返事を送った。しかし、それで気持ちが収まるはずがない。