いつも空を見ていた  

2005年 03月 20日


〔2002年の塵埃秘帖4月号から〕好きだった人

いつも空を見ていた
飛行機雲が見えたら家まで電話をかけてきた
おまえの部屋の窓からも見えるかーって尋ねた
いつも空を見ていた

好きだった人
夜になっても空を見上げていた
星の名前なんか知らないけれど
天文学者になりたいなとつぶやいていた

いつからかわたしも空を見上げるのが好きになっていた
言葉に詰まるとそっぽを向いて空を見た
いつも青空ばかりじゃなかったけれど
そんないくつもの顔を持った空がわたしは好きだった


雨がやんで小鳥がさえずりはじめると
緑の新芽を精一杯に吹き出した森の雑木たちが
ざわめき出すような気がした

峠には木霊が棲んでいた
太陽が差し込み
雨のしずくがきらりと光った

あいつはいつものように空を見上げて言った
別れのときが来た
新しい道を歩もう

空は青く
飛行機雲さえなかった

【回想】

これを書いたときに、私はひとりのオンナを思い浮かべていた。
決して実話から書いたものではないし、そんなにロマンティックな女であったわけでもない。
こういうことを書きたくさせてるような、可愛い奴だった。
そう、、、何処かの遺跡の壁画の鳥のようなシルエットを持った子だった…。