空が悲しい <霜降篇>

2005年10月22日 (土曜日) 【新・塵埃秘帖】, アーカイブ(〜2007)【拾遺集】


あの旅の途中の青い空の下で、山の向こうの見詰めながら、目指す村に辿り着く夢を語った夏の日があった。道ばたに屈んで雑草を引き抜きながら、片寄せ合って二人で夢を考えていた。

そう、あの村のどこかで別れてきた女のことを、十年近くも前に棄ててきたオンナのことを、何を今更考えてみたころで始まらないじゃないか。悲しい素振りなんかやめてくれ。

あの旅を途中で切り上げて、二人でそこで暮らそうなんて、本気で考えていたんだけれど、怖くなったのは、どっちだったんだろうね。
十年経ったらあの村で小さなペンションをやってるよ。美味しいキノコの料理をしよう。そんな会話を、今はもう誰も覚えていやしないだろう。

二人が目指した村にあれから一人で行ってみた。何もない寂れた村を確かめてみたかった。小さな神社の角を曲がって、ひっそりと山陰にある沼のほとりを通って急坂を降りると廃校があった。もう何年も誰も耕さなかった田んぼがあって、枯れた草が生い茂っていたよ。

ひとりじゃ旅に出られやしない。あいつがそこにいるようで。

鳥のようなオンナだったあいつを想うと、きょうの夕焼けは何故か悲しい色に思えてくる。
空が冷たくなるほどに、燃え尽きるように空が赤い。
鳥になれなかった俺を思うと、ああ、空が悲しい。