ひとり、寂しいヤツだったんだ  

2005年 12月 02日


「お母さんが、お父さんに足蹴にされていたのを私は見たの。浮気をした女なんか死んでしまえ、って蹴られてるのよ。それから、何日かが過ぎてお母さんはいなくなったの。」
しばらく黙って考えてまた話を続けた。
「ファザーファッカーっていう内田春菊の小説があるのよ。あんなカンジなんだよ。」

あの子が小学生のときで、あの子の妹はまだ幼稚園だった。
だから、私は母のない子なのだ、と言う。

ずっとひとりで生きてきた。
初めて生理になったときも父がきちんと薬局に走ってくれた。
父さんは優しいこともあったけど、憎かった。
バイトで稼いだ金も父が巻き上げてしまう。

身体を売る以外は、何でもやりました。
フーゾクだってちょっとは知ってるよ。
高三のときに朝までバイトがあって、学校で眠くて仕方なくて、うっかり眠ってしまったら、担任が「オマエ、身体を売ってるんだろう」って言いながら髪を引っ張りまわすんだ。
でも、私、そんなことしてないよ。

でも、先輩に騙されて、やられちゃったの。
バカヤローって叫んでも仕方がない。
お父さんは酒ばかり飲んで私に当り散らすから、私は家を出たんだ。
多摩川の傍にあるオンボロなアパートだったんだよ。
ミニバイクで寒いのにバイトや学校に通ったんだよ。

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私は、アイツの話を信じて聞いて、思いきり抱きしめたのでした。
でも、
ほんとうは私がアイツにとことん騙されていたんだなと、随分後になって気づくわけです。