あの夏、のこと

2006年 01月 16日


(栄村と津南町)

ひとりで来るその人を、長野県栄村の道の駅で私は待った。午後2時の約束だった。
そこは長野市からしばらく信濃川に沿って下ったところにある。もう数分走れば新潟県という場所だった。

私は鬼無里から戸隠を経てここまでやってきたが、あの人はどの方角からやってくるかもわからない。いや、もしかしたらやって来ないかもしれない。
何も知らされていなかった。彼女のことは、名前と住んでいる街を知っているだけで、他は何も知らなかった。

ひと月ほど前、木曽山中の真っ暗な茂みに寝転がって手の届くような星空を見上げながら、夜をともにした人。
とにかく栄村の道の駅で落ち合いましょう、と申し合わせて、東北方面へと旅をともにすることになったのだ。

約束の時刻がどんどんと過ぎて、3時を回っても彼女は現れなかった。

暗闇で抱きしめたときの、猫の背中のような彼女の背中の柔らかさを思い出しながら、来ないのかもしれない…と一瞬思った。

つづく


【鳥のひろちゃん】