あの夏、のこと ─ 阿賀川3 ─

2006年 06月 22日


信号待ちがまったくない道路が続いている。ときには赤信号で止まって、横に並んで顔を向かい合わせて見つめてみたい。バックミラーを頻繁に見やりながら想像を膨らませることのほかに、対話ができない時間のなかで、今度止まったらあの話をしようこの話をしようと、次々と想いが募ってゆく。

その募る想いのフラッシュの隙間に、ひとつの事件の場面が絡んでくる。

好きなオンナができてこれまでの生活ではなく新しい生活を考えている、と或る日、妻にポロリと言ってしまったのだ。妻を愛している故に、どんなことでも相談をする間柄であって恋の悩みも打ち明けてしまう、という愚かな側面を私は持っていたのだ。

のちに、かみさんは、「貴方は別れが下手な人や、私と別れることもあの女と別れることも下手やった」と言う。あのときも今もこの世の誰よりも妻を愛しているので、私はこのようなことが書けるのだと感謝している。

さて、
そのオンナを私は愛している錯覚に陥っていたのだ。好きで好きで仕方がないうえに、この子には私がいてあげねばならない、と強く思っていた。確かに自分の心に偽りはなかったのだが。

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梅雨が明ける前の蒸し暑い夜のことだった。
あのころの私はもう言葉を吐き尽くしていた。

ぐっすりと眠り入っていた私の枕元に、ヘルメットを被った男性が来て、
「起きてください」
と声を掛ける。

「奥様は救急車に乗っていただきました」
「ええっ、(何が起こったの)」
「お薬をたくさん飲まれたようです。119番をもらって駆けつけて、いま、車に移動させました。ご主人はどうしますか?」

あの夜の、
極めて強く、冷たく、
そして微動もせずに私を睨んだ救急隊員の視線が脳裏に甦る。

甘い妄想なんか抱いている場合じゃないんだ。オマエはオンナと別れるために旅に来たのではないのか。

磐越自動車道路のインターの工事現場が間近に見えている交差点を左に曲がって阿賀川が見えるあたりまで来て、私はバイクを道端に停止させた。

つづく