あの夏、のこと ─ バッキャロー ─

2006年 08月 05日


ウエストバックを枕にすっかり寝入ってしまったようだ。道路脇の公園に設けられた木陰にベンチを見つけて横になったのは3時ころだったはずなのに、陽光は傾き私の顔には西日が差し込んでくる。
燃えるというより焼けるというのがふさわしい。紫外線が針のようにチクチクと頬を刺しているのを感じて私は目が覚めた。

もしも…。

あの子が私を追って来てくれたなら、すぐに目に付くところにバイクが止めてあれば気づいてくれるだろう。膨れっ面をして「ひでぇ奴だなあ」と乱暴な言葉使いで私の前に現れる…。
そんな気がして走り急ぐこともせずに、私はベンチで昼寝を選んだのだった。

黄色いカンナの花が咲いていた。それを眺めながら、ぼんやりとしている。寝ぼけたままで、ひとりで居ることの意味の重大さに私は段段と気付き始めている。
30℃を越えるような真夏日だから夕方になっても地面が冷めない。公園を吹き抜ける風は生温い。

視界にあるカンナの花が、まるでTシャツの絵柄のように目の中に焼きつく。あの子は黄色いカンナの花のTシャツを着ていたのか。そんな思い違いを自分で訂正してブツブツと独り言を呟く。
「ほんとうに、来ないのかなー。何処に行ったんだよぉー」

そう。彼女はそこには来ないのだ。

幾ら待っても来ないことを私は知らなかった。そのころ彼女は、開通したばかりの高速道路に乗っかって東京方面へと走っていたのだ。

「バッキャロー!ひでぇ男!サイテーの男だな。オマエ」

つづく