あの夏、のこと ─ 北へ ─
2006年 08月 07日
【銀マド:鳥のひろちゃん】 を書きながら、夏が過ぎてゆきます。
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あれから幾つもの歳月が過ぎ、砂の器が風化するように、私の記憶も崩れてゆく。
「鳥のひろちゃん」を書き始めたころは、ほんの軽い気持ちでした。
あのとき、私が居たひとつの風景と心を書き留めておきたいと思ったのです。
今読み返して、ダブっているところもありますが、少しずつ私の心が風化して行っているのも、しっかり読めばわかります。
それは、新鮮さを失うことでしょうか。
新しい細胞が、また生まれ始めて、古いものが消えてゆくのだから、失うのではなく始まるのでしょうか。
もう少し、旅の続きを書きます。
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彼女がいないという現実を認めていましたが、彼女が東京へと向かって走っているとはこれっぽちも考えませんでした。
山ひとつ隔てた何処かの町で今ごろ宿屋を見つけて風呂にでも入っているか、要領よくキャンプ場を見つけ出してテントを張って星を見上げているだろう。そんなふうに想像していました。そして明日にでもひょっこりと目の前に現れるのではないかと私は思っていました。
ファミレスで夕食を取ったあと、私はひとりでさらに北へと走りました。通過する町では花火大会があって、国道の向こうには大輪が上がっている。花火に向かって私は走りました。
あの子はこの花火を何処かで見ているんだろうか。…と、ふと、思ったときに、彼女のケータイを知らないことに気づきました。そう、今まで電話などする必要もなかったのです。
でも、どうして彼女のほうからケータイの番号を教えてくれなかったのだろう。心の何処かに何かの予感があったのだろうか。
夜の国道をいつまでも北へと私は走り続けました。
つづく