あのとき、雪

2006年 12月 13日


風のない静かな一日でした。

朝、一面の霜が路地裏を覆いつくしたものの、昼過ぎには明るい日が差し始め、窓越しに見るビルや民家の屋根瓦が温温としているように見えました。でも、ガラスの向こうは予想以上に冷たかったようです。

午後3時を回るとビルの影が街を包み始め、雲行きが怪しくなってきました。雪が降り始めたのは7時ころだったでしょうか。

あの人のいる都会は私の住むところよりも遥か400キロも東へ行ったところです。お天気がどうなっているか、咄嗟には想像できませんでしたが、大きな寒波が日本列島をすっぽり覆いつくしているのだとしたら、彼女がアパートまでひとりで帰る夜道は雪になってしまう。

きっと、傘を持たずに家を出たに違いない。

冷たく髪を濡らすボタン雪から逃げるようにあのケヤキの道を駆けている姿を私は思い浮かべました。思えば思うほど痛ましい。

雪は瞬く間に屋根やブロック塀、それに生垣の山茶花も真っ白にしてゆきます。
そんな景色を見ながら私はメールを打ちました。

「雪ですね、濡れていまいか心配です。帰ったら暖かいお風呂に入ってね」

しばらくしたら返事が届きます。
「コケタ。スベッタ」

ああ、なんて不運なんだろう。
私がメールを送らなければ彼女の身にそんな不幸など来なかったのかもしれない。

私たち、出逢わなければお互いに幸せだったのかもしれなかったのに…。
そう悔やんだ日々があったのと重ね合わせて、自分の出したメールを私は悔やみました。

しんしんと積もる雪の中へと出てゆき自らを苛めてやりたいという衝動に私は駆られました。

そのとき、それまで息をひそめていた北風が少しずつ荒ぶりだし、窓ガラスを揺らし始めました。

続く