終楽章(2) 静かな夜

2007年 05月 14日


小さな旅を一緒に始めたころ、星明りのもとに張ったテント脇の地べたに、暗闇を見上げながら並んで寝そべったものだ。

「夜は、静かね」
「うん、いいなあ」
「・・・・」

「こうして、人の波から逃れて来ていると、あの中で必死にもがいている自分はいったい何者なんだろうか、って思うよ」
「そうね」

「人が人を落とし合い倒し合いながらいることが、果たしてそんな幸せにつながるというのだろうかね。何かと何かを秤にかけて、どれだけか得をすることが本当に人の心を豊かに出来るのだろうかね」

数々の不満に似た疑問が口をついて出てくるのを、あの子は幾らか理解してくれていたのだろうか、はてまた同情していたのだろうか。今となっては、まったく不明だ。だが、ただただ二人は、夜空を見上げ、ひんやりと頬を冷やす初夏の夜風の中でしゃべり続けたのだった。

林の中にポツンとあった牧場のような広場に張ったテントの周りには、人は疎か動物たちの姿もなかった。私たちの話声は、決して小声ではなかったものの暗闇に響くわけでもなかった。まさに余韻を吸い取られたかのように二人の間を声は往来した。

「ボクがキミを幸せにするよ」
イケナイと思いながら抱きしめていた。

(つづく)