長い夜 その2

2007年 12月 18日


長い夜だった。真っ暗な夜空を見上げながら、ひろちゃんは話を続けた。

父のひどい暴力はとどまることはなく、お腹を蹴られた晩に母は泣いていた。そしてあくる朝、母は家に居なかったと言う。

その事件があった後の苦労の日々。クラスメートや担任から受けるイジメ。高校は卒業するけれど、進学の挫折。多摩川の堤防沿いの壊れそうなプレハブ・アパート暮らしやそこからミニバイクで専門学校に通った辛い日々。

自分の歴史からあんな過去は抹殺したいと彼女は話した。

無数の星が暗闇に散らばっていた。真夏の高原は清清しい涼しさで、草原に寝転がって二人で星を眺めた。星が宇宙にこれほどたくさんあるとは思ってもみなかったし、そのことを共通して感じていたけれど、二人は言葉に出さなかった。

この星の中から流れ星を見つけてお祈りをすれば、二人が結ばれることだってあるのだ。そんな夢のような話も、二人のどちらもが言い出すことはなかった。

父のことを身勝手で浮気性、妹と自分を分け隔てて扱うような尊敬できない人だったと言い、母はそれに愛想をつかせて出ていった可哀相人だったのだ、と彼女は話した。

このように、哀れむべき母と憎むべき父の像を、くっきりと浮かび上がらせたのもこの夜のことだった。

長い夜は二人の間に数々のドラマを残したのだ。しかし、その夜に交わした会話の中で彼女が描き上げた父と母の像が実態とは大きくかけ離れたものだった、という事実が後に明白になってくる。