別れの断章 番外

2008年 03月 21日


北風が止んだ或る日、暖かい陽射しが庭にもふりそそいだ。
ふと屈みこんだそこに水仙が一輪ひっそりと咲いているのを見つけて、春が来るのだ、今年もまた春が来るのだ、と心の中で何度も私は呟いた。

さよならを言うこともなく
二人は別れた
こぶしの花の咲く丘で
ボクたちは出会ったことを
忘れないで欲しい

雪解けの峠道には小さな緑が芽吹いていた。

--- 「山が笑う」っていうの。素敵じゃない。

あのときのあの子の笑顔を忘れたくない。

別れの断章。そう、数々の旅を共にしながら、その旅の小さなピリオドには小さな分かれがあった。

新緑の高原を一緒に駆けて、土砂降りの雨の峠で、向こうとこっちに分かれて行った日もあった。
北国へと続く寂れた国道脇の寂れた食堂でラーメンを啜り、そのあと大喧嘩をしたこともあった。
幾つものドラマを作って、そして、伊吹おろしが吹く冷たく寒い湖畔で、朝日を見ながら二人はほんとうに別れてしまった。

花を愛する素敵な人と、どこか遠くで結ばれて幸せに暮らしているだろう。
約束されたように春が来て、こぶしが蕾を結んでも、タンポポが日蔭に咲いているのを見つけても、もう辛い過去など思い出さないだろう。

あの場所へ、私はもう帰らない。
雨が降り嵐が吹き荒れ、冬には雪が積もり、季節が巡って来たその場所に、たとえ輝かしい軌跡が残されていたとしても、私はそこへは帰らない。

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好きだった人
ボクの前で涙など見せない
でもそれは負けないための強がりだった
寂しい森を走りぬけ
峠の麓にボクが待つ公園があるのを見つけたとき
ひっそり泣いて、涙を拭いた
寂しかったの、あなたの姿が見えるまでは不安だったわ
涙は白い雲の流れと一緒に消えた