さよならなんべんも云つてわかれる(尾崎放哉)
2008年 09月 24日
放哉はそう詠んだ。
なんべんも、か。
さようならという言葉を言い合うこともなく私たちは別れた。
あのとき、私の気持ちのなかには、またいつかどこかできっと会えるという予感のようなものがあったはずだ。
けれども、あの人にはそんな気は毛頭も無かった。私を憎んでいただろう。
いっしょに旅をしたときに撮ってやった写真を大事に持っていたので、それをあの子に返した。
「ちょっとそばにおいで」というように手招きをして、おでことおでこがゴッツンコするほど近寄って、息が掛かるほどになって、ポケットから写真を出してそっと手に握らせた。
たくさんの友だちに見られないように、そっと、そっと、渡した。
あれが私たちの本当の別れの儀式だった。
*
十年の歳月が過ぎたんだ。
空白の時間に突入して、あの人のことを思うと旅を継続できなくなり、ペンが持てなくなった。
「十年も過ぎれば…」と誰かが言ったことが頭の片隅から離れないまま、ときが過ぎてきた。
或る人の日記で「十年」という言葉を見つけた夜に私は…「十年が過ぎても何も変わらないままなところもある」と振り返った。
遥かな未来を見つめていたつもりだった。
あなたを大切な人だと思っていた。
でも、ぜんぜん、上手に伝えられなかった私がおバカだった。
それでも、何事にも無関係に、時は流れてゆく。
(続くの?)