別れの言葉をさがしていた
街へ誘った。
もうコートも不要なほど暖かい日があると思えば、冷たい風の吹く日もあった。思いつきで家を飛び出してきた基花も、慌てて家を飛び出した私も、ふたりともギクシャクした格好で、「私たち、駆け落ちの恋人同士みたいね」と笑った。

まんざら嘘でもなかった。
駆け落ちの恋人で、あいつはこれから逃避行を夢見ている。私はこの女からどうやって姿をくらますかを悩んでいる。

街を抜け出して海の見える公園に向かった。白い光が南の空から容赦なく私たちを照らした。基花は、髪が風でバサバサになるのを押さえながら、眩しそうに目を細めて私を見てニッコリする。

ああ、私はこの女を裏切ることなど出来ない。でも、このままだと私たちには破局しかない。私の想いは沈み込んでゆくが、基花は演技をしているように決して暗くは振舞わない。

この世に生まれて、あなたと私
逢わなければよかったのかしら
日蔭の花と日向の花
私たちの蜜を吸う虫さんに便りを託して
恋文だけを交わす仲でいればよかったの?
いえいえ私はちがう
いつか日の当たる明るい街角まで
私の胞子を飛ばして旅をするの
だから
私たちは風に乗って遠くまで旅に行くのよ
ねえ、雪が解けたら、花を求めて旅に行こう

なんて潮風が爽やかなのだろう。この子とふたりでいると海の放つ哀しさがこれっぽちも感じられない。海に私の身体が融けてゆくような錯覚が襲いかかる。基花と深い海に沈んで行けたら幸せになれるのだろうか…

〔2004年春に記す〕

〔次章に続く〕