長い冬
長い冬が、何も無いような顔をして過ぎてゆく。

しばらくの間、会わない日が経った。募る苛立ちと焦りで送る日々は、次第にマイペースに変化し、メールを送ってみることで紛らわすようになっていた。身体が性的欲情を我慢できないのは仕方が無く、苦心をしながらもお互いが爆発しない方法を考え出している。離れ離れになっているときの基花は、冷めた印象が強く、落ち着いているように思えたが、時には返事がない沈黙の一刻もあって、私はそのことで腹を立ててみたり落ち込まされたりして、それがまた基花の魅力でもあった。

私たちは離れて暮らしていても、やがて、ひとつになって新しい道を歩み始めるだろう。そのときに、あなたは、私の手を引いて山を開き、いつも強く抱きしめて、十年後には牧場が広がる高原のそばに小さなペンションを建てる話を打ち明けてくれるでしょう。私はその牧場の夢のような風景を私の筆で絵に描いて友達に届けるわ。十年の結婚記念日には、たくさんの仲間を呼んでパーティーをしたい。

基花は子供を欲しがらなかった。それは自分が子供のころに受けた仕打ちの辛さが身体中に染み込んでいて、自分が母になる自信がなかったのだろう。さらに、母というものが子供にとってどれほど大きなもので、寂しいときや不安なときには暖かく包み込んでくれるものなのだ、ということを味わった経験がなかったために、そういう欲望さえも生まれようがなかった、ということもあるらしい。

基花は苛立ちが募ると自分を棄てた母の悪口を言いながら自分に冷たく当たった父のことを思い出し、ひどかった十代の思い出をわずかな言葉にして私にぶつけるように浴びせ、そんなことをしながらすっかり忘れてしまおうとしていたらしい。傷は相当に深く、癒えることはなかった様子だったが、辛い部分はそのままにしたままで、夢を語って紛らわして忘れたつもりになっていただけなのだ。

春が近づいたら雪解けの村に旅に出るのだと、基花は繰り返し言い続けた。桜の花が咲く前に私たちは再び固く抱き合おうと毎日のようにメールに書き続けた。しかし、春が来るまでは辛くて寂しい日々が続いた。

〔次章に続く〕