春が間近だというのに、東京にも私の住む街にも大雪が降った。

交通が乱れて1日じゅう家に居ようと決めて部屋で読書をしていたら、お昼前に電話が鳴った。

「昨夜のバスで東京を発って今朝、雪で遅れながらだけど、近くまでやって来たの」

基花はケロリとそう言い、車で迎えに来て欲しいと私を誘った。もしも、雪が降っていなかったらどうなっていたんだろうか…。私はいつものように家を出て会社に行ったはずだ。そのとき基花は何処にいる誰に電話をしたのだろう。そのことを考えると恐怖で胸が詰まりそうになるものの、大急ぎで身支度をして家を出た。

花びらの舞い散る街はずれの小さな古刹で
あなたと私は出逢ったの
昔からの恋人のように川辺を歩き
緑の山を眺めて佇んだ
幼なじみだった友達のように
手をつないで駆け出していた

昨夜、一晩、バスに揺られてこの街まで来る間にいろんなことが頭をよぎったの。
私はあなたと出逢ってまだ間もないのに、幼なじみの恋人どおしのように、こうして二人で会えるし、散歩もできるの。
それがとても嬉しくて。
二人で強く生きてゆこうと、バスの中で誓ったの。そしたら泣けてきて…ねぇ。

一気にそう話してうつむき加減に私をにらんだ。そしてニコリとした。

〔次章に続く〕