木枯らしがステンドグラスを揺する夜

2005年 11月 30日


知らず知らずのうちに遠くの女性を慕い、願いが叶ってときどき逢えるようになり、そして、知らず知らずのうちに恋心を抱き、最後は悲しい別れとなるオトコの物語。もう少しで春のお別れ篇を迎えます…。

クリスマスソング。そんなものが所沢の駅前で流れていただろうか。木枯らしに吹かれながら、暮れなずむ街路を大学から駅へと駆け足で急ぎます。

12月の風は冷たかった。でも、所沢よりは銀座の方が2℃ほど暖かかったかも知れない。1着しかないセーターの上からヨレヨレのトレンチコートを羽織って、いつものように銀座まで心を弾ませながらゆきました。

「クリスマスも近いことだし、きょうはパブに行きましょうか」

ときには遠くに住む母の面影を、またあるときには一度も会うことのなかった姉のイメージを胸に抱きオーバーラップさせていたのでしょうか。寂しがる私の話をいつも笑顔で聞きながら、
「就職も決まったんだし、早く論文仕上げてよ」
と檄を飛ばしてくれた。

「お正月は東京で過ごすんだ…学会の締め切りが1月初めだし…」
「私は福島に帰るよ。昔みたいに手紙書くから」

彼女は草加市に住んでました。もしも車があれば環七を走って1時間余りかも知れない。都会というところはイジワルなところだとつくづく思ったものです。

(アナタの部屋まで押しかけて)「暖かいコタツのある部屋でゆっくりアナタと話をしていたい。」
そんな私の泣きごとを聞きながら、きっと困った顔をしていたのでしょうが、
「もうすぐ京都に行くんだから、そこではきっと夢が叶うよ」
と励まし続けてくれてたんです。

あのときのあの子の心の中には、私と同じく、二人で最後に出かけるところは鎌倉にしよう、という思いがあったのでしょう。
「私には将来を誓い合った人がいるの、だから、そのときを最後にしましょう」
とは、決して口にしなかった。

「手紙を書くから、お正月は論文を完成させてね」
子どもではなくかといって大人に成り切らないまま交わす会話。みすぼらしい貧乏学生の風体。そんなものとは裏腹に、銀座のパブは大人たちの妖しい喧騒に包まれて、空想のような艶めかしい酔いに私たち二人は浸っていったのでした。