手元に1枚の書きさらしの手紙がある。万年筆のインクが日に焼けてかすれはじめて、便箋も染みだらけになっていた。
加川良は語りかける。さらに、詩は続く。
♪ 京都の秋の夕暮れは コートなしでは寒いくらいで 丘の上の下宿屋は いつも震えていました
そうか、もう、コートなしでは寒いだろうな、そんな季節になったのか。
私は便箋を手にとって過去を探るように滲んだ字を見つめている。ひどい文章だけど、二十歳過ぎってこんなものよね。たぶんボツとなった手紙だろう。棄てるのもナンだしメモっておこうか。
鶴さんへ
木枯らしがこの冬初めて吹いた今日は、
アナタはどこでどう過ごされたんでしょうか?
元気な様子ですね。
3回風邪をひくと冬になり3回風邪をひくと春になる、
なんて言いますが、まだまだ春は遠いようでも・・・・
と書きたくなる。
28日土曜日
午後、早々に部屋に辿り着いたら、
速達届いてました。
大変嬉しゅうございました。
ほんとに泣いたんです。
私って本当に泣き虫なんですね。
布団に横になっても滲むようにあふれてくる。
それに感情が乗っかっておいおいと声を上げて泣いている。
毛布をかぶってみても、悲しいものは本当に悲しいのだから・・・・
今だからこういうふうに笑いながら書いているけど、
僕にはどうしようもできないんだと思うと、悔しかった。
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彼女は福島県郡山市のほうで仕事が見つかったんだ。
冬を都会で過ごして、私は京都に。彼女は福島県へと別れてしまうことになるのでした。