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風に訊け 11号

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煌(きら)めく思い出について
 
 ふとしたときに、思い出すものがある。中には、思い出したくないようなこともあるけれど、たいていの思い出は、輝いている。色あせることはなく、時が経てば、ますます輝くようになってくる。
 
 中学校のとき、僕は、バスケットボール部に所属していた。市の中で弱いほうから1、2位を争うくらいのチームだった。僕は背も低かったし、高校でバスケットボール部に入ろうなどとは、全然思っていなかった。けれど、バスケが嫌いなわけではなかったから、1年8組の仲間と、毎日昼休みに、体育館でバスケのゲームを楽しんでいた。
 
 校内球技大会は、学年を越えてのトーナメントだった。1年8組のバスケットチームの中には、中学でかなりのレベルまで達している者もいて、僕はレギュラーになれても、5人目にやっと入れるかどうか、という具合だった。当然、メンバー全員中学ではバスケ部だった。
 
 大会の優勝候補は、2年7組。バスケットの経験者が高校の現役も含めて3〜 4人いたようだった。それでも、僕らは、優勝をねらった。毎日練習をして、日曜日も集まって練習をした。その甲斐あって、決勝戦で2年7組との対戦となった。しかし、審判がゲームを始めようとしても、両チームとも体育館の壁にもたれて集まらない。だって、その日だけで、3試合ほど勝ち抜いたのだから、体がいうことをきかなくなっていたのだ。ギャラリーはどんどん増えてくる。SHRは、すべての試合が終わってから全校一斉に行われることになっていたので、暇を持て余していた者が観戦しにくるのだ。
 
 僕らのチームの武器は、速攻だった。それも、並の速攻ではなかった。ゾーンデイフェンス(2−1−2)をしていて、相手のだれかがシュートを撃てば、前にいるガードの一人が、ダッシュする。リバウンドをこちらが取ったときには、彼はもうゴール下間近にいるわけだ。取ったボールを投げるときは、ダッシュした彼が振り返るのを待ってはいない。彼が振り返りそうなところに投げるだけだ。彼の使命は、振り返ってボールを受け取り、リングに入れることだった。
 
 僕は、もう一人のガードだった。僕の使命は、相手がシュートを撃って、そのシュートがはずれたとき、味方がリバウンドを取るのを信じて、最初の彼に続いてダッシュをする。そして、彼がシュートをはずした場合に、リバウンドをとって、確実に点を取ることだった。
 
 今でも決勝戦のワンシーンを覚えている。・・・相手がシュートした。その瞬間、彼はダッシュしていた。相手のシュートが、はずれた。僕はダッシュした。僕の前で彼が振り返ってポールを取ったが、体勢がくずれていた。彼は何とかランニングシュートをして、体育館の壁にぶつかっていった。シュートボールがリングから跳ね返ってきた。僕はジャンプして、ポールをキャッチし、すぐにミドルのジャンプショットを放った。ボールはまたまたリングに入らずに返ってきた。もう一度ジャンプして、リバウンドをとって、今度はセットショットに切り替えた。背中で足音がする。ギャラリーの悲鴫が大きくなる。近づいて来るのは味方じゃない。落ちつけ!と自分に言いきかせて、リングをねらった。ボールが手を放れた瞬間、僕の手のすぐ上をだれかの手が横切って行った。が、ボールの軌道は変わらず、そのままリングに吸い込まれていった。と、そのとき、体育館中に歓声が響きわたった。僕は思わず両手を握りしめ、高く挙げながら走り回っていた。
 
 結局、試合には負けてしまったけれど、僕の中に、いつまでも輝き続ける思い出が残った。あの歓声は、忘れられない。あの一瞬、僕は煌めいていたんだ。
 
 「この思い出があれば、これから出合う苦しみをすべて乗り越えて、一生やっていける」というくらいの煌めく思い出をだれかに与えることができるなら、それは、きっと、すてきなことに違いない。
 
 

10号 自我のめざめについて  ◆ ◇ ◆  12号 自由について(T)−自由と規則−
 
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