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風に訊け 16号

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秘伝について
 
 秘伝というと、すぐ「幻の味のことか」と言うのがいるが、僕の追求しているものは、もちろん武術の世界でのことだ。戦国時代に、本当に生死をかけた中で、何人かの天才が、他人が気づいていないことを発見して、自分たちが生き残るために門外不出として伝えてきたもの、それが秘伝だ。だから、同じような状況に身を置かずして、新たな秘伝を発見することは、ほとんど不可能だろう。
 
 秘伝は秘伝として伝わってきた。一子相伝ともなると、兄弟ですら、それについては話し合うことがなかった。秘伝をよりよくマスターできる方に伝承され、伝承された者は秘伝を秘伝として守り、後継者に伝承するまで、修行を積むことになる。秘伝を伝承された者とそうでない者の間には、大きな差が生じてきて、伝承された者は、ますます強くなって行く。何かの事故で、伝承者がいなくなれば、そこで秘伝は絶えるわけだが、秘伝が漏れ広まるよりましと考えられていたのだろう。
 
 秘伝は、なぜそこまでして秘密にしなければならないのか。もちろん、才能がなければマスターできないから、あるレベルに達していない者に教えたところで、どうしようもないということもあるだろうが、秘伝を秘密にしておかなければならない最大の理由は、他にある。秘伝は、ある天才が発見した事がらだから、それを公開すると、その事がらに気づいた別の天才が、すぐに応用するようになる。そうなってしまうと、命のやりとりをしていた時代だから、最初に発見した者自身の命も危なくなる。また、秘伝の中には、だれでも修練さえすれば身に付くこともたくさんあると思われる。
 
 例えば、箸の使い方が秘伝として、ある家族に伝わっていたとしたら、その家族以外は、箸を使えるようにはならなかったにちがいない。二本の棒で食事をするという噂が流れたとしても、どの様に箸を持つのか、想像できる者はいないだろう。だから、箸の持ち方というのが、秘伝中の秘伝となる。持ち方さえ分かれば、訓練によって、何とか食べられるようになる。だけど、その微妙な使い方をマスターすることは、むずかしいかも知れない。どの指にどのような力を加えると豆腐が切れて、どういう角度にすると豆がはさめるなどという伝書があるわけではないし、あったところで理解できないだろう。結局、「こうするのよ」と実演してもらって、それをまねて、自分なりの方法をマスターする以外にないわけだ。
 
 現在は戦国時代ではないのだから、秘伝を秘伝として伝えなければならない必要性は低くなっていると思う。秘伝が絶える前に、それを公開して、先人の発見を後世に伝えて欲しいと思う。その中には、現代スポーツの誤りを指摘するものが、たくさんあると思う。スポーツをすることによって、腰を痛めたり、アキレス腱を切ったりすることがあるが、そんなことを戦国時代にしていたはずがない。自分の体を壊すようなことをしていては、生き残ることができないではないか。身体運動というものを考えたとき、昔の動きの方が、無理なく、理にかなっていたように思う。ただ、それらは、ほとんど忘れさられてしまっている。
 
 中国武術の中には、まだまだ秘伝が残っている。日本にも、いくつかの流派によっては、公開されていないものがある。ある書物に、中国武術を学んでいる人へのインタビューがあって、「どんなパンチでも避けられる理論がある」と彼が述べていた。内容については、「秘伝だから言えない」とも。また、別の書物に、日本の武道家の話があって、「パンチを避けるのは、理論による」と述べられていたが、やはり、内容については何も言及していなかった。この二人の発言から、パンチを避けるための理論が確実に存在することがわかった。理論であるから、内容が分かれば、ある程度の才能さえあれば、だれでも修得することが可能なのだろう。今、この秘伝の理論を解明しようと考えている。
 
 

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