顔
いつだったか髪を切りにいって、店長と話をしていたら、従業員が朝まで飲んでいたということが分かりました。朝まで飲んでいて、遅刻もせず、しっかり仕事をしている。たいしたものだと感心したら、その店長が言いました。彼らはプロとして失格だ、と。私には、どういうことか分からなかったので、理由を尋ねると、彼らの顔色が悪いとの答え。顔色が良くないのはお客様を不快にさせる。だから、ダメなのだ、と。今度は、店長に感心してしまいました。プロとはそこまで気遣うものなのか、と。
けれども、考えてみれば、当然のことかもしれません。誰だって辛気くさい顔をした従業員のいる店で髪を切りたいとは思いません。その日に初めて来た客は、もう2度と来ないかもしれない。店長にとっては、プロ意識のない従業員がいることは、死活問題なのでしょう。
私は、今より若かった頃、鏡を見ながら練習をしました。どういう顔が生徒に安心感を与えるのだろう。叱るときには、どういう顔がよいのだろう。真剣であることを示すためには、どういう顔でなくてはならないのだろう。映画俳優の笑顔の写真や、落語家の真剣な眼差し等、参考になるものはあふれています。その中で、難しいと思ったのは、やはり目の表情でした。目だけで笑ったり怒ったりすることがいかに難しいことか。笑顔などの表情は、口の形がかなりの部分を占めます。だけど、それだけでは、うまくいきません。モデルの笑顔の写真を見ても、ほとんどの場合、ちっとも楽しくなりません。形だけの笑顔など、ないよりはマシでしょうが、生徒の心はほぐれません。
私たちは先生の顔をしているでしょうか。その前に、公の場で仕事をしている社会人の顔をしているでしょうか。ホテルの受付係りが、仏頂面をしていてはいけません。じゃあ、先生は仏頂面をしていてもいいのでしょうか。
私は、教師として勤務するようになり、しばらくして、毎日の緊張感もあって、非常に疲れて、職員室の机に突っ伏してしまいました。すると、先輩がすぐにたしなめてくれました。「そんな格好したらあかん。子供達が見とる。」もちろん、まわりに生徒がいないことを確認して突っ伏したわけで、生徒がいたわけじゃありません。けれど、すぐに分かりました。先生というのは、いつも生徒に見られているという意識で、いなければいけないのだと。生徒の前では、常に先生でなくてはならないのだと。
先生は、どんな顔をすればいいのでしょうか。先生は、どんな態度をとればいいのでしょうか。先生は、どんな言葉遣いをすればいいのでしょうか。先生とは、どうあるべきなのでしょうか。
昨年度は新任教頭研修をいくつか受講しました。その中にもありましたが、腕や足を組んだり、横目で見たり等は、相手に良い印象を与えません。ですから、とりあえず、生徒に呼ばれたら、必ず笑顔で生徒の方を向いて、どうしたの?と優しく応えてはどうでしょうか。忙しければ、笑顔で生徒の方を向いて、忙しいことを伝えましょう。笑顔でアイコンタクト(目と目を合わす)。1秒でいいのです。そういうことを子供達が覚えて社会に出ていってくれたら、と願っています。
でも、急いでいるときなど、パソコンに向かいながらニコリともせず返事をしている自分がいます。私もまだまだだなぁと反省しきりです。