ノーベル物理学賞
日本は、結果がどうなるか分からない基礎研究になかなかお金を出しません。失敗するかもしれないからこそ、新しい発見があるかもしれないのに、危ない橋を渡ろうとしないのです。こうしたら失敗するということを知ることも、とても大切な財産であるはずなのに。したがって、日本では、紙と鉛筆があれば何とかなる理論物理が発達します。その正しさを検証するためには、莫大なお金をかけて実験装置を作らねばなりません。いくつかは、日本でも装置を開発しましたが、多くの検証は、外国頼みです。いつまでも、こんなことをやっていてはいけないと思うのですが・・・。
さて、2008年度は、ノーベル物理学賞に3人の日本人が選ばれました。彼らは、いったい何を研究したのか。私なりの解説をしてみます。ただ、どこまで正しいのか、自分でも分かっていません。生徒に話したりする場合は、正しいかどうかの検証をしてからにしてください。
この世の物質が何からできているのか。あらゆる物質を壊していくと、原子があることが分かりました。原子とは、陽子と中性子からなる原子核のまわりを電子が回っているもの(と、日本では教えます)です。こうなると、誰もが、疑問に思います。陽子も、何かからできているのではないだろうか、と。そこで、陽子や中性子を壊してみたら、さらに、新しい粒子が見つかりました。どんどんどんどん壊していって、もう、これ以上壊せないという粒子を素粒子(クォーク)と名付けました。(素粒子も壊れるのではないかと、最近は研究がなされています。)
このクォークが3種類しか見つかっていないときに、京都大学の助手だった小林誠と益川敏英が、クォークが6種類以上あれば、宇宙が存在することを理論として1973年に発表しました。
宇宙は、100億年以上前に、ビッグバンから始まったとされています。ビッグバンは、「無」から起こりました。簡単に言うと、何もないところから、プラスとマイナスが生まれたのです。プラスとマイナスはくっつくとまた「無」になりますから、「無」から生まれることができたと考えられます。でも、そうなると、現在、宇宙が存在することが説明できません。生まれても、すぐ、プラスとマイナスがくっついて、また「無」になってしまうからです。そこで、プラスだけが残るという理論が必要になります。同じ数のプラスとマイナスが生まれたはずなのに、プラスだけが残るという理論(「対象性の破れ」と言います)です。これを1960年代に研究していたのがシカゴ大学教授の南部陽一郎です。小林・益川理論は、この対象性の破れを説明できたのです。ただし、クォークが6種類以上あれば、の話です。
1974年に4番目のクォークが発見され、1977年に5番目のクォークが発見されましたが、6番目のクォークが発見されるのは、それから18年も後の1995年でした。この時点で、やっと、小林・益川理論が正しいらしいとなったのです。
宇宙という広大なものを知るためには、クォークという微小なものを解き明かす必要があります。それが分かったところで、日常生活に何の影響もありません。晩ご飯のおかずの方が重要な問題です。でも、好奇心、探究心が人間にはあるのです。人類の能力でどこまで解明できるのか分かりません。でも、人類は、こんなことまで解明することができたのです。単なる好奇心から。